島々を巡って書き上げた、小説版と舞台版「変半身(かわりみ)」の舞台裏を語る-村田沙耶香(小説家)×松井周(劇作家)

9月16日に三重県総合文化センターにて、村田沙耶香×松井周 新作公演「inseparable変半身」プレトークイベントが行われた。
inseparableは、村田と松井が共同原案をもとに、演劇と小説をそれぞれに発表するプロジェクト名で“切っても切れない”の意。2017年に始動し、取材旅行や合宿を重ねて共同原案を立ち上げた。それをもとに、11月下旬には村田の小説版「変半身」が、11月末から12月にかけては松井作・演出の舞台版「変半身」が東京・三重・京都・神戸にて上演される。本イベントでは同プロジェクトに深い関わりを持つ編集者・山本充の司会により、村田と松井がプロジェクトの立ち上げからそれぞれの作品について語った。

自分のドッペルゲンガーではないか

まず、トークの冒頭で山本は、2人が劇団サンプルの機関誌「サンプル」の「変態」特集で対談したことを契機に、親交が始まったと紹介した。お互いの印象について松井は「自分のドッペルゲンガーではないか、分身ではないかと思いました。それまで自分のことを変態だと思ったことはなかったんですけど、村田さんとお会いして『あ、これが変態ってことなんだ』と気付かされた感じがあって(笑)」と語り、村田も「松井さんとは、男でも女でもなく松井さんという不思議な生き物と話している感じがしたんです。『こんなボール投げてもいいんだろうか……』と思いながら投げたボールを、松井さんは『わかります、わかります』って全部返してくれて、それがすごくうれしかった」とシンパシーを述べた。
最初の対談で村田は、“亡くなった人を食べてそのエネルギーで交尾し新しい子供を作る、新しいお葬式の形・生命式”について書いた自身の短編を紹介たと言い、その話に興味を持った松井が「そういう新しい儀式を、一緒に作りませんか」と村田を誘ってコラボレーションが始まった。

島々を巡り、ヒントを得る

まず2人は、土台となる共通の世界観を作るべく、一昨年の10月に伊豆諸島の神津島へ取材旅行に出かけた。島に着いてすぐ、一行は神津島の最高峰・天井山を登ることに。だが、村田は思っていたよりハードな登山に「油断が死を招くと思い、神津島に死の印象を感じました」と話す。さらに島を取材中、墓地や建設途中のまま廃墟となったリゾートホテルを松井が撮影するのを見て、村田は「怖い、罰が当たるのではないか」と不安を感じて、1人で逃げようとしたエピソードを披露。村田の真剣な語り口に、会場からは笑いが起きた。一方の松井は、神津島が流刑地だったということに、作品のヒントを得たと話す。
神津島取材から3カ月後、今度は兵庫の城崎国際アートセンターにて、10日間に及ぶ合宿が行われた。2人は連日、執筆に没頭。ただ村田から出た“獣姦”というキーワードに絡めて、イルカを見に城崎マリンワールドを訪れた。村田は「すごくかわいいイルカのショーを観ている最中に、松井さんが『獣姦の話を聞いた後だからか、イルカが艶めかしく見える』と言っていて。(イルカへの“獣姦”という話は)自分が言い出したことではあるんですけど、みんながイルカをかわいいと思ってるショーの時間に、そんなことを1人考えている松井さんて変だなと思いました」と話し、会場は再び笑いに包まれた。なお城崎合宿の最終日には、村田が書いた、ある島の“奇祭”を巡る小説の一部を青柳いづみ1)※1 青柳いづみ…マームとジプシーとチェルフィッチュの両劇団を中心に活躍する女優。2019年6月、三重県文化会館でも穂村弘×マームとジプシー×名久井直子「ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜」でほぼ一人芝居を演じた。が朗読し、松井が演出する試演会も行われた。
その後、今年に入って台湾の緑島でも取材が実施された。緑島は1947年の二・二八事件2)※2 二・二八事件…1947年、台湾で起った中国国民党による民衆弾圧事件。中国人官憲の闇たばこ摘発隊が台湾人老婆を殴打。これに対する抗議デモに警備兵が発砲し、各地で人々が蜂起したが、国民党が中国大陸から送り込んだ軍隊に鎮圧され2万人以上とされる死者が出た。以降、1987年まで思想犯を対象にした収容所があった島で、現在は台湾のリゾート地として知られる。緑島の取材はスケジュールの都合で松井しか参加できなかったが、松井は「そういう歴史の光と影が同居した場所が、自分の創作の刺激になった」と振り返った。さらに夏には、国立科学博物館にて特別展「インカ帝国展」を取材。その後、三重県文化会館副館長のアドバイスで三重の神島にも出かけた。神島は三島由紀夫が「潮騒3)※3 「潮騒」…神島が舞台とされる三島由紀夫の小説。世間から隔絶されたような小さな島で、若く純朴な恋人同士の漁夫と海女が、いくつもの障害や困難を乗り越え、結ばれるまでを描いた純愛物語。」を執筆した島として知られるが、村田は実際に島を訪れたことにより、「もしも三島由紀夫が友達で、松井さんと“由紀夫くん”と私の3人でこの島を舞台に物語を書いたとしても、きっと全然違う物語になっただろう」と感じ、それなら自分にもできるのでは、と思ったと言う。その一方で松井は、奇祭と言われるゲーター祭り4)※4 ゲーター祭…三重県鳥羽市神島町の八代神社で行われる奇祭。元旦の夜明け前に、グミの木で太陽をかたどった直径2メートル程度の白い輪(あわ)を島中の男たちが竹で突き落とす。過疎に伴い「宮持ち」と呼ばれる祭主の成り手がおらず、2018年以降は行われていない。の伝承が、年々難しくなっているという話に興味を示し、「僕は祭って一つの物語だと思っていて、祭をなくす、つまり物語をなくすことは、人間にとってものすごいロスだと思うんです」と思いを述べた。

変身、変化を求めて

2年にわたる取材を経て、村田は小説版の、松井は舞台版の「変半身」を現在執筆中だ。舞台版について、松井は「今回僕が作ろうとしているものは、『人間ってなんだろう』ということ。実は人間ってもっとデタラメでいいんじゃないかと思うし、この先人間が何かと融合したり結びついたりしたらどういう世界になるのか、そういうことを考えたい」と話す。小説版について村田は「今回に限らず、私の作品では常に『人間が変わっていくということ』がテーマになっている気がしていて」と発言。「『変半身』の登場人物の1人が『自分は容れ物だ』と言うシーンがあるんですけど、人はある文化の中で教えられたままを信じ、周囲の言動をトレースしながら生きている。でも違う文化圏に行けばそこで新たな情報を入れ、また違う私に“変化”していくわけで、じゃあ人間は一体なんだろうか、という問いかけが私の中にはあります。そういった意味で、この小説には“人間の変化”が描かれていると思います」と自信をのぞかせ、トークを終了した。

写真=松原豊 文=熊井玲