音が記憶を、空間を立ち上げる―三浦直之 ロロvol.13「BGM」

9月に三重に初登場するのは、1987年生まれの劇作&演出家、三浦直之率いるロロ。
6月下旬、台本執筆に向けたプレ稽古を開始したばかりの三浦に、新作「BGM」の構想を聞いた。

―前作「あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語」から約1年ぶりとなる本公演。今回の創作メモを拝見すると、とある歌劇団のロードムービー的な作品になりそうです。

三浦 2015年に上演した「ハンサムな大悟」と「あなたが〜」と、続けて2作“一代記もの”を書いて、僕個人としては人生を追って書きたい、という気持ちはずっとあるんですけれど、薄々気づいてはいたんですが劇団員はこういう作品が続くとしんどそうで(笑)。実際僕もかなり肩に力を入れて書いたので、今回はちょっと力を抜いて、ちゃんとエンタメするというか、音楽や振付がある、楽しい作品を作りたいなと思っています。で、どうやって音楽を使おうかと考えている時に、音がその人の記憶、バックグラウンドを立ち上げる、それが舞台上にも背景や空間として立ち上がってくる・・・というイメージが湧いてきて、BGMをモチーフにした作品にしようと思ったんです。

 

―音楽は書き下ろしだそうですね。ミュージカルになるのでしょうか?

三浦 最初はゴリゴリのミュージカルにするつもりでしたが、失敗すると思って音楽劇にすることにしたんです。でももはや音楽劇でもないかも・・・(笑)。歌も歌いますが、音は後ろにある、前には出てこないイメージですね。僕の家では、母親がずっとSMAPの曲をかけていて、車で移動中もSMAPを聴いてた記憶が強いんですね。今回曲を作ってくれる江本祐介さんとは、僕が昨年福島県立いわき総合高等学校の学生と作った「魔法」で、江本さんの「ライトブルー」って曲を使ってからの縁なんですけど、その「ライトブルー」も「SMAP感ある」っていうところが好きになったきっかけ(笑)。楽しい曲っていうと僕、SMAPってなっちゃうから、それで今回も江本さんに音楽をお願いしました。それで、この間1週間くらい、江本さんと一緒に東京から出発していわき、僕が住んでいた宮城、そこから山形、会津って車で回る旅をしてきたんです。その場その場で僕が詩を書き、江本さんが曲を書くということをやって。その曲を今回、使っていけたらいいなと思っています。

 

―それは楽しみですね。ツアーは意識して創作されるのでしょうか?

三浦 ツアーすることにちゃんと意味を持てる作品にしたいというのがあって、そのお客さんが住んでる場所、観る場所によって作品の見え方が変わってくるといいなと思っています。それと、作品を作りながらいつも思っているのは、僕はサブカルで育ってきたからそれを大事に作品を作るけれど、そのせいで、作品がサブカル好きな人たちにしか届いてないんじゃないかなってことで。それと、最近みんな、自分が持ってる言語の中で生きている感覚がすごく強まっているなと思っているので、そこを交通する、行き来するような作品を作りたいなとも思っています。

 

―3都市の土地性を作品に盛り込んでいくような構想はありますか?

三浦 東京は上京してからずっと暮らしている街で、宮城は18歳まで暮らしていた場所。三重は全然知らない場所なので、この3つの場所をどういうバランスで考えていくかは大事だなと思っています。特に宮城の女川は、小学校3年生まで暮らしていた場所で、女川って東日本大震災の時に津波で流されているんですけど、2年前くらいかな、また新しく駅ができたんです。その駅がかなりコンセプチュアルに造られてて、ホームに上がると向かいにぱっと海が広がるんです。で、ぱっと反対側を見るとお墓がずらっと並んでる。それを見ていろいろ考えてしまって。女川に物語が貼り付けられてるっていうか、女川が震災を背負った街に変わろうとしてるんだな、って思ったんです。震災以降ずっと、多分無意識のレベルでも女川という街を意識しながら作品を作っている感じがあるんですが、今回はそこに切り込みたいなと思っています。

 

―「ハンサム〜」「あなた〜」に続き、舞台美術家の杉山至さんが美術を担当されます。杉山さんのアイデアによって作品が影響を受けることはありますか?

三浦 そうですね。至さんとやることで作り方が変わってきた実感はあります。空間が物語にどう影響を与えるかってことを考えるのが、僕も至さんも好きで。「ハンサム〜」の時は“触る”ってイメージから伸縮する布を使い、「あなた〜」では“歩く”を突き詰める中で、いかに道を表現するかというところから紐を使いました。

 

―今作は現時点で、輪や円がモチーフに上がっているようですね。

三浦 はい。至さんが今、迷宮の図にハマっているという話をしてて、一緒にその図を見ながら“巡る”っていうアイデアを思いついて。回る、巡る、行く、帰るって行為はそのまま全部繋がるなって。

 

―作品にそれらがどう反映されてくるのか気になります。最後に、今回初めてロロに出会うお客様も多いと思いますので、観劇を後押しする一言を、お願いします。

三浦 僕が興味あるのはずっと1個で、よくわからないものと出会うっていう瞬間がすごく好きだし、大切だと思っています。「BGM」でも、登場人物たちは旅をしながらいろんな人と出会ったり、別れたりします。その出会いと別れのいろんなバリエーションを描きたいし、実際、ツアーの中でも多くのお客さんたちと出会い、別れますから、そういう可能性がいっぱいあるといいなと思ってます。それと、僕にとっては漫画とか小説との出会いも大きくて、それらと演劇をどうしたらもっとつなげるか、橋渡しできるのかなってこともずっと考えていて。今回は音楽好き、小説好きな人たちも観て楽しめるものにしたいと思っていますし、どうしたらそういう人たちにアクセスできるかを、稽古の中で今、考えています。

取材・文:熊井玲
舞台写真:「あなたがいなかった頃と、いなくなってからの物語」撮影:三上ナツコ