志賀亮史 百景社「ロミジュリ」に挑む

三重と百景社の関係

―百景社は2011年から毎年三重にお越しになっていますね。

志賀:2011年の12月に『走れメロス』1)百景社は2011年三重公演は「走れメロス」(津あけぼの座)で登場。
以降、
2012年7月「また逢う日まで」(津あけぼの座スクエア)・「バーサよりよろしく」(三重県文化会館)
2012年11月「山椒大夫」(M-PAD2012)
2012年12月「谷底」(玉城町保健福祉会館ふれあいホール)
2013年11月「夢十夜」(M-PAD2013)
2014年5月「斜陽」(三重県文化会館 A.C.O.A.「ジョン・シルバー」との連続上演)
2014年11月「風博士」(M-PAD2014)
2015年11月「100万回生きたねこ」(M-PAD2015)
と上演。
また、関西を中心に活躍する俳優・坂口修一との作品製作も行っており、
2013年7月 「走れメロス」(津あけぼの座)
2013年11月 「駈け込み訴え」(MPAD2013)
坂口修一は今回の「ロミオとジュリエット」に出演する。
をやらせてもらってから、三重で公演させてもらうことが多くなったんです。年に最低1回、多いときは2回、3回という年もあったと思うんですけど、本当に毎年三重で何かしらやらせてもらっていて。実際こんなに来ることになるとは最初は全然思わなかったです。
津にはいろんな演劇人が集まってきていて、その人たちと出会うきっかけをもらったのも、ありがたかった。
僕らの本拠地である茨城県土浦市は東京から電車で大体70分くらいなんですけど津も名古屋から1時間ちょっとぐらい。その辺の立地がちょっと似てる感じがして。津あけぼの座が置かれている環境も僕たちに近い感じがしてて、そういう意味ですごくシンパシーもあるし。
また、この5年の間に津のお客さんも「百景社」を知って観に来てくれている感じもあり、とてもありがたいなと思っています。

―志賀さんから見て、津と土浦、どの辺が近いとお考えですか?

志賀:津でもそうだと思うんですけど、日本の地方には、そもそも観劇文化はないし、劇場も公共ホールを除けば、ほとんどありません。そんな中で演劇をやろうと思うと、どうしても、演劇を観たことのない人とどうやったら関われるかということをある程度考えざるを得ないと思うんです。で、私たちは、劇団結成してからの10年間、毎年野外公演をやったり、劇場ではない場所で上演してきたという経緯があります。それがどの程度効果があったかは分かりませんが、いろいろな観客に出会えたような気はしています。2013年からは自前のアトリエ2)百景社は2013年に拠点となるアトリエを完成。百景社製作の作品上演だけでなく、アトリエ祭を開催。全国・海外のカンパニーとの交流を進めている。を持って、年1~2回の本公演と年1回のアトリエ祭を行っているんですが、前は自分たちが出かけていって、演劇を観たことない人に出会いに行くという感じだったのですが、今は、どうやったらアトリエに来てもらえるんだろうという問題に直面しています。
僕らが津にはじめて来たときは、津あけぼの座や三重文が中心となって、ちょうどいろいろな取り組みを本格的に始動させ始めたころだったと思うんですけど、地域の中で演劇をどうやっていくのかいろいろと考えていて、同じような問題に取り組んでいるところにシンパシーを覚えたというのがあります。

「ロミオとジュリエット」を上演する訳

―今回、『ロミオとジュリエット』3)W・シェイクスピアによる戯曲。1595年前後に書かれたと言われる。あまりにも知られた物語は演劇だけでなく、映画・音楽・オペラなど様々な形で繰り返し題材として取り上げられている。戯曲は全5幕による構成。を上演する訳ですが、なぜ『ロミオとジュリエット』をやろうと思ったのですか?

志賀:もともとは2015年に自分たちのアトリエで上演した作品なのですが、その時、劇団員だけじゃなくて、他の、外部の人も入れて作品を作ってみようと思って、オーディションをしたんです。百景社にとって、初オーディション。それまでは知り合いの俳優さんにお願いして客演してもらうことはあったんですけど。
さっきも言いましたが2013年にアトリエを持って、なんとかいろんな人に関わってもらいたいなという気持ちがあって。応募してくる人いるのかな、と思っていたんですけど、意外と来てくれました。で、地元の演劇をやっている人とか、大学生とかに参加してもらって、うちの俳優とで、出演者10人の作品を作った。
そのとき、なぜ『ロミオとジュリエット』を選んだかというと、地元だと(お客さんに)演劇をよく知っている人というのがあまりいないので、タイトルとして、「あ、知っている!」と思われる作品がいいと思い…『ロミオとジュリエット』なら、全部読んだことがある人はあまりいないと思いますが、名前を知らない人はほとんどいない作品なので、いいかなと。また普段あまりできない大人数でやるなら、といっても10人ですけど、シェイクスピアがいいだろうというのもありました。
また、去年2015年の1年間はアトリエでずっと作品を作っていて(1月に『ロミオとジュリエット』、6月に宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、10月にテネシー・ウイリアムズ『ガラスの動物園』)、その自分たちのアトリエで作った作品を他の地域の人に観てもらいたいというのもあります。ちなみに今まで三重で上演した『斜陽』『走れメロス』『バーサよりよろしく』などは、アトリエを持つ前に作ったものなので、アトリエ純粋培養の作品は実をいうと今回初めてです。アトリエを持つようになって、作品づくりにも変化が出てきているように思うので、その辺りも観てもらいたいなと。
それと、2015年の初演の時に、三重文の松浦さんと津あけぼの座の油田さんが観に来てくれて、三重でやってもいいんじゃないかと言ってくれたこともありますけど(笑)

―今年はシェークスピア没後400年でもあります。志賀さんから観てシェークスピアはどんな作家と感じていますか?

志賀:400年以上前に、イギリスの人が書いた作品を今日本人の私がやっているというのはとても不思議な感じもします。私だけではなく、世界中で今現在も上演され続けている。
今稽古をしていて思うのは、それは『ロミオとジュリエット』だけではないですが、さまざまな解釈や表現に耐えられる強度を持っているなということです。戯曲を読んでいて、もしくは稽古していて、いろいろな角度からいろいろな発見ができる。
どんな表現をしても、シェイクスピアになるのが、シェイクスピアのすごいところで、今も世界中で愛されている理由なのではないかなーと思います。

―では「ロミオとジュリエット」の魅力はどこにあると思いますか?

志賀:シェイクスピアの戯曲のひとつの見所は、台詞だとは思います。ともかく、なんでもかんでもよく例えるし、説明する。簡単には、言わない。「愛してる」ということを伝えるのに、何行も費やす。たまにすごいしゃべったあげく、「手短に言うと」って言ったりすることもある。全然短くない(笑)。
シェイクスピアの戯曲には数多くの名台詞がありますが、特に『ロミオとジュリエット』には、名台詞が多いと思います。特に有名なバルコニーのシーンの台詞はいいなーと思います。その辺は間違いなく魅力だと。

―再演ということですが、前回とは変化がありますか?

志賀:一番大きいのは、出演者が変わったことですかね。
前回のオーディションのメンバーも2人ほど(八木さん、遠藤さん)残っていますが、それに加えて、大阪の坂口修一さん、第七劇場の木母さんが入ってやる感じになっています。コンセプト的な部分は前回と変わらないと思うんですが、百景社の俳優陣も含め、配役もほとんど変わっているので、だいぶ印象が違うものになるのではないかと思っています。
特に坂口さんは、三重のおかげで出会い、三重で『走れメロス』『駆け込み訴え』と一緒にやりましたが、どちらも出演者は坂口さん一人だったので、今回劇団の作品に坂口さんが加わるとどんな感じになるのか私自身楽しみですし、三重のお客さんにも楽しみにしてもらいたいところです。

―どんな作品になりそうですか?

志賀:『ロミオとジュリエット』というと、どうしてもロミオとジュリエットの悲劇みたいな部分、2人が恋愛して、いろいろあって2人が死んじゃうみたいな部分がメインになるイメージがあると思うんですけど、結構色んな人が出てくる。
ジュリエットのお父さん、お母さんだったり、ジュリエットの乳母だったり、ロミオの友達が出てきたり、ジュリエットに結婚を申し込む人が出てきたり。乳母はロミオとジュリエットの状況をよく知っていたりするけれど、お父さん、お母さんは全く知らない。中には、ほとんど何も知らないで、流れ弾に当たるみたいな感じで、不幸にも死んでしまう人もいる。ロミオとジュリエットの恋愛という一大事件の周りに、巻き込まれたり、蚊帳の外だったり、知らぬ間に荷担してしまったり、そういう人たちがいるっていうのが、実をいうと『ロミオとジュリエット』のツボなのではと今は思っています。2人の恋愛が引き起こした事件というより、いろいろな偶然や誤解が重なって起きてしまった悲劇みたいに見えたら面白いなと思って、今作っています。

―百景社と言えば、独特のセンスあふれる演出が一つの特徴と言えると思うんですが、志賀さんにとって、演出をするという行為で心がけていることは何でしょうか?

志賀:組み合わせの面白さみたいなことは考えていると思います。すでにあるものとあるものを組み合わせて、別の新しいものを作るみたいな。私は自分で言葉を書けるわけではなく、すでに人が書いた言葉を使って、上演するということもあるし、古典作品や文学作品を扱うことがほとんどなので、作家の言葉と現在生きている私たちとの組み合わせから、新たな見え方が生まれたらいいなと思っています。ただ、表面的な部分の組み合わせの妙だけを考えているわけではなく、その作家が持っている本質的な部分には近づきたいなとはいつも思っていますけど…。
それとこれは10年間くらい野外公演をやっていたことがあるので、その影響もあると思いますが、なにか偶然が入り込む余地と言うか、そういう部分は残したいとは思っています。
野外をやっていると、風が吹いたり、雨が降ったり、月が出たり、自分たちではコントロールできない何かがある。でも、それを受け入れる余地が上演しているこちら側にあれば、不思議といい場面で風が吹いてくれたりしたこともあって。ここで「風、吹け」とか邪念があると吹かないけど(笑)。
演劇はライブなので、そのコントロールできない何かというものがあるということを忘れないではいたいし、排除しないようにしたいです。

―三重のお客さんに向けて、メッセージを。

志賀:三重との付き合いも5年経つんだなと思うと、時の流れになんだかしみじみする部分もありますね。
5年間という時間は、いろいろと変化をもたらしていると思うんです。三重の演劇を取り巻く状況は大きく変化していると思うし、私たち百景社も5年前とはだいぶ劇団としての在り方が変わってきたと思う。
その変化が、舞台に現れていればいいなと思っています。私たちの作品を観たことある人にはその辺を楽しみにしてもらって。観たことない人はこの機会にぜひ。
会場でお会いできるのを楽しみにしています。