場所と人との化学変化を起こすー鈴木史朗 ACOA「熊」「霧笛」

三重県文化会館・津あけぼの座が共同でオススメの演劇を招聘していく「Mゲキ×Aゲキ」。
劇場のみならず、水田、池、ギャラリーといったあらゆる場所で、ダンサー・音楽家とのコラボレーションを行うA.C.O.A.の鈴木史朗さんに話を伺った。

―2013年に津あけぼの座のクリエーションとして「スピリッツ オブ ジョン=シルバー」1)【注】「スピリッツ オブ ジョン=シルバー」(作:唐十郎 構成・演出:鈴木史朗) 2013年9月に津あけぼの座による劇場製作作品としてクリエーション作業を経て津あけぼの座スクエア(現:四天王寺スクエア)で上演。を上演されましたが、あの時を振り返っていかがでしたか?

鈴木:津で上演するときはいろいろと試せるんですよ。出演者の妙な組み合わせとか、スタイルの再構成とか、そういうことが自然とできるんですね。 あの時を振り返ると、若い世代の俳優達とまた違う経験豊富な年上の音楽の人達と、さらにその上の唐十郎の言葉という組み合わせで、色々なことを試すことができたなと思っています。

―実は今回で三重での上演は4回目です。2)【注】2012年7月「タバコの害について」(津あけぼの座)
2013年9月「スピリッツ オブ ジョン=シルバー」(四天王寺スクエア)
2014年6月「ジョン=シルバー」(三重県文化会館小ホール 百景社「斜陽」と同時上演)

鈴木:一番最初は作品を持っていった感じで、それ以降はいろいろと試させてもらっていますね。三重の人との出会いがとても面白い。僕が考えていることを新しい人と試させてもらうと、お互いに原始的な体験ができる。前回はとくに舞台上で。「とにかく居る。アル。」みたいなことをやりたいんだけれど、きちんとそれを自分で考えてやってくれる俳優達に出会えたなあって改めて思いますね。

―チェーホフ「熊」・ブラッドベリ「霧笛」という2本を上演されますね。

鈴木:「霧笛」と「熊」は、ずーっとつきあってきた作品なんです、15年くらいやってる(笑)。 いつの間にかそれくらいつきあっている。
「霧笛」なんかはパフォーマーとして、演出家として、ソロで、音楽家と、デュエットで、形態も場所も様々。「熊」も構成・演出、出演者の数もどんどん変わってきている。けれど、言葉は変えない。ブラッドベリやチェーホフとの距離は大切にしたいとは常々思っている。僕はカラダ、つまり演技に飽きるということがないんだと今ははっきり思います。正直物語には飽きがある。解釈しきったような気になることもあるけれど、いざこのカラダからセリフとして発してみたり、演技者に語ってもらうといつも新しい発見がある。これが僕には楽しい。
年を重ねて、自分自身にも変化があるし、新しい人と創作することでまた新しいものになるんじゃないかなと思います。

―「おとこしばいおんなしばい」と付いてますが、これはどういった意味なんでしょうか?

鈴木:僕の芝居は、男性が女性を演じたり、女性が男性を演じたりということが多いんです。自分にとって演技というモノは日常との距離感が大事で、フィクションとして何かを表現していくことを大切にしたいなと考えているからだと思います。そうすると自然と男性が女性を、女性が男性を演じるようなことが増えてしまっていたんだと思います。その方法論を自分でもきちんと確かめたいということでもあります。あとは異物を演じることでジャンルを確立してきた歌舞伎や能、宝塚、へのリスペクトもこっそり入っていますね。僕は あえて「おとこしばいおんなしばい」と名付けてみました。
「霧笛」では、男性俳優が中心に出演、「熊」は女性俳優が中心に出演します。

―また、鈴木さんの演出の一つの特徴には生演奏が入るというのがありますね。

鈴木:今回の井ノ浦英雄さん、鈴木正美さんはとても好きな音楽家でもありますし、様々な形で現場を一緒にしてきました。極力思うままに提案してもらって即興的な判断をしてもらっています。極端に言うと、音楽の人を僕から制御することはできないので。その制御できない全く違うセンスを持った人がドカンと入ってくるとつくる作業が面白い。音楽が入るとまとまった感じには見えることもあるけれど、それはまたハプニング発生装置でもあるかもしれません。

―三重で2週間滞在しながら製作していく訳ですが、この滞在して作ることの意義というのはどういったところにあると思われていますか?

鈴木:台本と構成、プロットを使って、演じる場所で、何をどの感触を遊ぶのか。というのが、僕にとっては仕事なんです。 たとえば、(今回出演する)夏目君とか、彼が僕と演劇つくりながら、(滞在中に)一緒にはしゃいで釣りしたりとかするでしょ、そうするとリハーサルの時になってとても面白い。リハーサルのために、ある場所に身体が移動されて、そこで人とも出会って、劇場空間にもふれる、遊んだりまでしちゃう。人の身体は、どんどんはしゃいでいって、人の皮膚感覚・肌感覚みたいなのが、変化してゆく。それを採集して舞台上にあげたいなという思いがあるから…。
レジデンスをすることで、場所とその人の化学変化を起こしたいなと思っていますね。

―三重公演の出演者は、夏目慎也(東京デスロック)・酒巻誉洋・大川翔子・三上晴佳(渡辺源四郎商店)の三重にやってくる俳優と、ワークショップオーディションを経た俳優の8名でつくりますが、どのようにつくられるんですか?

鈴木:今回は「霧笛」と「熊」に分かれて作品ツクリをします。昼間は滞在者チーム、夜はワークショップ参加者チームでリハーサルを行います。混合チームで一つの作品をつくることも何回かやってきたんだけれど、一番大変なのはリハーサル時間がとれないことなんだよね。仕事をもっている人たちは夜しか集まれないでしょ。今回はその悩みをバッサリ解決してしまおうと思っています。僕はリハーサル大好きなんで…。簡単に言えば昼間は「霧笛」を、滞在者がメインのチームで。夜は「熊」をワークショップ参加者がメインのチームで作ります。同じ会場でつくるから、そこからなにかしら予期せぬことが起こると思うけど、誰かが二作品掛け持ちとかもあるかもしれませんね。

―今回の意気込みをお聞かせください。

鈴木:意気込みというものよりは、あの場所でやる喜び、期待が大きいですね。「霧笛」も「熊」もまったく新しいメンバー、構成だし、これはいつもなんだけれど、これをやるって意気込みよりも、どんなものになるだろうかとか、どんな発見があるんだろうかみたいな、事件といってもいいようなエンゲキ的な体験を求めています。

取材・文:油田晃