内藤裕敬「トリプル3『あらし』」を振り返る

市民参加型に初挑戦

―三重には以前から、お芝居以外で来られてたんですか? 釣りとか。

内藤:釣りでは来てたね。

―南の方ですか。

内藤:そう、鳥羽の池の浦とか生浦。あと迫間浦の方とか1)三重県鳥羽市の「池の浦」と「生浦(おうのうら)」、度会郡南伊勢町の「迫間浦(はざまうら)」。伊勢志摩地方の釣りスポットとして人気がある。内藤さんは釣りと競馬が趣味。

―渋いですね。じゃあ割と、三重の海は知ってたってことで。

内藤:うん。あと俺、鳥羽水族館2)観光地として知られる三重県鳥羽市にある水族館。全長約240m、通路全長約1.5kmと、室内型の水族館では世界最大規模を誇る。約 1,000種の生きものが見られ、日本で唯一飼育展示しているジュゴンや、日本初の赤ちゃん誕生で話題となったラッコが人気。
鳥羽水族館
が大好きでね。できれば年1回は行きたい。行けないけど。

―他の水族館と何か違うんですか。

内藤:やっぱデカいよね、規模が。各地で水族館があると行くんだけど、やっぱりデカいよ、鳥羽は。1日居ても飽きないね。

―じゃあ三重には、ちょこちょこ来られてたんですね。さて今年「トリプル3」3)「トリプル3 演劇ワリカンネットワーク」のこと。「3つの劇団」と「3つの公共ホール」が「3年」かけて、新作戯曲の書き下ろし、公演の製作・上演、各地域でのレジデンス企画を展開するネットワーク型・市民参加型の演劇プロジェクト。「南河内万歳一座」「劇団ジャブジャブサーキット」「劇団太陽族」の3劇団と、「すばるホール」「長久手市文化の家」「三重県文化会館」の3会館が連携し、2010年にスタートした。最終年の今年、三重県文化会館では10月13・14日、南河内万歳一座と地元の役者らが共演し「あらし」を上演した。
トリプル3
が3年目で最終年ですが、3年間どうでした?

内藤:うーんとね。じつは今まで、市民参加みたいな形をやったことないんだよね。で今回も、あまり意識的には市民参加って感じじゃなくて。オーディションしてるので、役者を選んでプロデュース公演やってるっていう意識の方が強かった。知らない人たちと、毎年新しいもの作るんだっていう感じで、特に違和感はないですね。

―基本的に、作品は毎年同じじゃないですか。で、俳優が変わるという。それについてはどうですか?

内藤:それはね、俺の個人的な作業面の問題が大きいかな。アンサンブル作っていく中で、どういう取り組みをするとか、どんな形で台詞や役柄を発想していくかみたいなことを、一から説明するわけじゃないですか。そのへん納得ずくで、可能性のある取り組みをやってくわけだけど。それが自分の方法論として、役者にちゃんと論理的に伝わってるかどうかってことが、まず大事だった。それがないと役者も戸惑うし、やってることが矛盾してきちゃったりするといけない。人が違えば、言い方変えなきゃいけなかったりするし。そういう意味では、3年間割と自分が持っている演劇観とか演劇作法みたいなものを、明確に伝える作業ができたかなと。自分の作業を確認する意味で、たくさんのことが検証できたのは、自分にとって大きいね。

―三重は岩崎さん4)大阪を拠点とする「劇団太陽族」の主宰者で、劇作家、演出家の岩崎正裕さん。三重県鈴鹿市出身で、三重県文化会館における劇作講座や演劇ワークショップの講師として活躍。「トリプル3」では2010年に同館で「綻刻―ラグタイム―」を上演。
劇団太陽族
が初演で去年、はせさん5)「劇団ジャブジャブサーキット」主宰者で劇作家、演出家のはせひろいちさん。岐阜市を拠点に大阪、名古屋などで人気を博している。同館での「トリプル3」公演は昨年の「やみぐも」。
劇団ジャブジャブサーキット
。で、今年が内藤さん。僕たち見てる側にとっては「演出家ってこんなに違うのか」と。オーディションや稽古を見学させていただいて「作り方もこんなに違うんだ」って。それが毎年すごく面白くて、地方ってもっと、作っているところを見せるべきなんじゃないかと思いました。

内藤:うん。

―公共ホールの取り組みとして、ここから全国的に広がるのかと思ったんですが、今のところ他の館が同じような方式でやるっていうのは、まだ出てきてないですね。ちょうど予算もないって時に、すごくいいシステムなのかなと思うんですが。

内藤:予算がどんどん減っている公共ホールの事業費とか考えれば、割り勘でいけるわけだからね。こういうやり方が発展しなければいけないと思うけど。基本はネットワークだね。公共ホール同士のネットワークの薄さが、こういう事業が発展しない1番の理由だから。担当者間のコミュニケーションとか。あとはね、やっぱり見栄張るから(笑)。自治体はね、横のコミュニケーションもやらなきゃいけないって思ってるんですよ、みんな。だけど「うちの自治体は他より、これだけちゃんとやってます」ってことを言いたいので。良い事業の山分けはしないね(笑)。

―目立つなら自分のとこだけ目立ちたいっていう。

内藤:自治体の首長さんがいて、そこから予算が下りるじゃないですか。そうすると首長さんに評価されて「やっとるなぁ」って言われることが、予算の問題も潤沢になるし、市民に評価されてるっていうことでトップも喜ぶ…みたいな構造があるでしょ。そうなると、他よりもうちがあの取り組みをやらなきゃ、っていう意識が強くなる。

―県と市の連携も大切ですよね。

内藤:例えば高知県は、県と市が仲いいですよ。劇場同士の担当者が。万歳6)内藤さんが座長を務める「南河内万歳一座」のこと。1980年、大阪芸術大学の有志により結成された。内藤さんの世代論を軸とする繊細な戯曲を、時にはプロレス技も飛び出す集団演技のアンサンブルと、緩急のタイミングを心得たダイナミックな演出により、爽快でパワフルな舞台に仕上げていく。近年は「父親不在」「家庭の崩壊」「距離感の欠如」「不確実性」などを題材とした作品を上演。「現代演劇は、作品の発表の先に何を見る?」をテーマに、新しいスタイル、表現、作品の発表だけではなく、劇団という演劇集団の活動とは何かを捜す。
南河内万歳一座
で行くと「じゃあ今年は市の方でやってくれる? 来年は県でやるから」みたいなことを、フランクに話し合ってくれて。やりやすいよね。

三重での可能性を探る

―市民参加の形を公共が仕掛けると、クオリティーの面はちょっと目をつむらなきゃいけないというか、言い方よくないですけど、「思い出作り」で終わってしまうことが多くて。特に地方って演劇と接する機会が少ないので。その辺りはどうですか?

内藤:3都市やって感じたのはね、大阪と名古屋(長久手)は大都市圏だから劇団もたくさんあるし、キャリアの差はあれど、それなりに舞台に立ってる連中が来るわけよ。だから、妙なくせが付いてるとかはあるけど、とりあえずは僕の考えを説明して、それに沿ってやってもらうわけだけど。それはプロデュース公演で、役者のオーディションをする形とあんまり変わらないのよ。で、津の場合は、まず去年名古屋(長久手)でやってるんで、名古屋(長久手)からあんまり受けに来ないよね。だいたい三重県内から来る。そうすると圧倒的に劇団の数が少ないわけだし、プロでやってますとか、年に1回や2回は公演してますっていうグループも少ないわけでしょ。ここに来て初めて「あ、市民参加のレベル」っていうことですよね。アマチュアの方が来てる、もしくはアマチュアにもなってない学生とか。津のメンバーが一番経験薄いし、訓練もされてないよね。

―他の2都市より、一般的な市民参加の形に陥りやすい状況という…。

内藤:でも僕は「市民参加だから」っていうレベルにしちゃまずい、東京の小劇場に持って行っても、「そのへんの若い連中には負けない」っていうクオリティーで提出しなきゃいかんだろうと思ってたんで。台本も「しっかり作らなきゃ、うまくいかねーぞ」っていうものを持ってきたわけ。大阪、名古屋はそれなりの経験を持った人が来たので、ガタガタになることはない。で、津のオーディションをして初めて「こりゃあ、一から鍛えなきゃ」っていう感じかなぁ。その人たちを基礎から本格的に訓練して、ある程度の水準まで持っていかなきゃいけない、っていうのが今回は大きなプレッシャーではあった。「きちんと訓練されて、鍛えられた人が舞台にいるんだな」というふうに見えなきゃいけない、と思ってやったね。

―オーディション終わった時点で、これは鍛えなきゃいけないと。

内藤:相当絞らなきゃいけないと思ったね。もちろん公共ホールだから、地域とホールの関係を構築する上で、クオリティーはさておき地域の方に参加していただいて、何か作業して発表するという事業も必要だと思うよ。でも今回それをやるつもりはなかった。だから津に関しては「結局、市民参加ね」みたいにならないようにと強く思ったし、それは参加者の能力だけでなく、鍛えてる僕の能力も問われるわけだから。そこは自分もチャレンジだし、「経験が少ない人をどこまで鍛えることができるか」っていう未知な面白みを持ってやったけどね。

―みんな“方法”っていうのを、持ってるようで持ってないので。例えばこないだの高校生のワークショップ7)南河内万歳一座×三重県文化会館「あらし」関連企画として9月30日、津駅ビル・アストプラザにて「高校生のための俳優ワークショップ」が開かれた。内藤さんが講師を務め、高校の演劇部員を対象に「高校生がいま学んでおくべき俳優の基礎訓練」を伝授。、びっくりするほど参加者が集まりましたよね。たぶん方法が知りたいんですよ。上手くなるっていうか、演技ってどうすればいいのかっていう。普段、精神論的なところでやらされてるケースが、三重はまだ多いと思うので。

内藤:そこなんだよね。結局いわゆる演劇の基礎的な考え方とか、「なぜそうなってるか」「なぜそうせねばならないのか」っていうことの論理性がないのに、ああしろ、こうしろって言われて、理解しないままに「そう言われたから、それがいいんだろな」と思って成長していくでしょ。高校演劇に関してはね、高校生という時代に、ゼロから立ち上げてみんなで作品を作って発表するっていう作業は非常に尊いことだから、それだけでも大事だとは思うんですよ。けれどもその中に、将来も俳優として作品に関わりたいと思ってる子がいるなら、間違ったこと教えちゃいけないし、論理的な基礎を説かなければいけない。けどその能力は高校にないでしょ。先生方も生徒も分かる範囲で、というかよく分かんないけど「こういうの、いいんじゃねーの」って。「なぜいいのか分かんないけど、何かいいと言われてるし」みたいなとこでやってる。で、それが養成所とか芸術系の大学行ったら、ほとんどが間違ってた、下手すると180度違った、ってことを知って、愕然とすることが多いと思うね。そんなこともあって、論理的になぜそれがいいのか、なぜそれをやるべきなのか、知りたいと思うんじゃないの、高校生も。逆に先生方は、論理的に納得した時に「自分の言ってること間違ってたわ」と思うとまずいから、なるべくワークショップには来ないようにする。

―大都市圏の場合、演劇のメーンって大学劇団じゃないですか。三重の場合は大学が少ないので、高校演劇になっちゃうんですよ。他の地方都市も一緒だと思いますけど。で、ちゃんと演劇やりたい子は東京や大阪に行っちゃうので、高校演劇で育った子たちが残らないんですよね。

内藤:そういう意味ではね、今回の「あらし」が、演劇人空洞化の傾向にある地域で、演劇が好きで関わりたいと思ってるとか、機会があればやりたいなと思ってた人たちが参加して、ある水準を越えたとか、それなりのクオリティーで作品の発表を成し遂げたら、「三重でも可能性がある」ってことになるわけだから。そんなとこまで行けばいいかな。

―三重ではこの2、3年、確実に変化はありました。高校生がここで年10本、20本演劇を見始めて、ワークショップに参加して、オーディションへ来るようになったので。以前は、高校生が市民演劇のオーディションに来ること自体なかったですから。

内藤:高校演劇以外に、いろんな演劇があるってことが認知されてきたんだね。

―高校生の出演者が、去年の「やみぐも」に2人、今年も1人。三重大生も多いし、座組の平均年齢が下がったのはいいことだと思いますね。市民演劇を見てると、じつは出てる人が変わらない、ってよくあるじゃないですか。「何回出てんだ、あなた劇団作ればいいんじゃない」みたいな。

内藤:あははは。まぁ、やる度にいい作品になるなら、何回も参加すればいいんですよ。

「あらし」今後の展望

―この「あらし」は、またどこかで再演するんですか?

内藤:うん。企画がこういう形でスタートしたので、同じように「地域に1カ月滞在して作る」みたいなことが、継続してできるなら。理想的にはあと2、3年はそれができればいいなと。その後に、万歳もしくは万歳プロデュースでやるという形を考えてもいいし。プロデュースでやったことで評判が上がって、逆にまた自治体から「やりたいんですけど」って話がくればやってもいい、みたいな。

―三重の人たちは、2011年の「七人の部長」8)「南河内万歳一座・内藤裕敬プロデュース」として、昨年7〜8月に全国4都市で公演。関西小劇場界屈指の俳優たちが女子高生役に挑戦し、話題を呼んだ。三重公演は三重県文化会館で8月13・14日に上演。「七人の部長」は越智優さんによる高校演劇界の定番作品で、全国の高校演劇コンクールで毎年どこかの演劇部が上演する。私立ヤツシマ女子高校の「部活動予算会議」を舞台とした脱線しまくりの会話劇。が内藤さんのお芝居初体験だったと思うんですよ。で、すごく面白かったって。ちょうどあの3、4日前が高校演劇の県大会で、僕審査員だったんです。最後に講評するじゃないですか。「こういうこと、やんなきゃいけない」って。それで高校生がみんな「七人の部長」見に行って、講評で言われたこと全部やってるって。「見本のような公演だ」っていう話になったんです。あれほんと、抜群に面白かったですね。

内藤:そうですか。本がよくできてるよね。

―高校生や三重でやってる俳優さんって、がんじがらめで遊べないっていうか、台詞がないと何していいか分かんないみたいな立ち方してることが多くて。だから「さすがだなぁ、遊ぶって大切だなぁ」と。

内藤:やっぱいい本はね、読んだ時に「あ、それだ」って思う本だから。あれは「ちゃんと遊べるように書けてるな」と思って読んだのね。

―あえて女性2人ってのが、絶妙ですよね。みんな男にせずに

内藤:そうだよね。主となる生徒会長と起爆剤になる演劇部っていう中心の2人が女性で、めちゃくちゃでエゴイスティックな他の運動部を男がやるっていうのは、よくできてるんじゃない。

―面白かったなあ。

内藤:稽古も楽しかったよ、毎晩飲んでたけどね。おじさんばっかりじゃん、出てるのが。飲みたくなるんだよ。夕方から2、3時間稽古しちゃあ、夏だから「あっち〜」つって、「じゃあ飲もうか」って稽古場で。たこ焼きとか唐揚げとか買ってきて、ビールやらかして帰る…みたいな毎日。缶ビールをチャリンコのケツに3箱くくりつけて稽古場行くけど、3、4日であっという間になくなる。

―あはは、そうなりますよね…。では、最後に今後のご予定を。

内藤:11月から万歳の「お馬鹿屋敷」っていう公演があるんですよ。その稽古ですね。9)「南河内万歳一座」の次回公演。11月19日(月)〜26日(月)の大阪公演を皮切りに、2013年1月13日(日)・14日(月・祝)北九州、1月23日(水)〜27日(日)東京、2月16日(土)・17日(日)高知と4都市を回る。作品の初演は2006年で、内藤さん自身「ここ10年くらいで書いた中で、僕自身が一番好き」と語る自信作。宿泊料がべらぼうに安いが部屋が1つしかない旅館「大和屋別館」を舞台に、さまよえる人々を描く。

―全国4都市での公演ですね。また三重にも来てください。ありがとうございました。

写真撮影:松原豊(office369番地)・脇ふみ子
インタビュアー:油田晃(特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえ)
構成:脇ふみ子
収録:2012年10月10日・三重県文化会館